大佐《まつしまかいぐんたいさ》であつたのかと。そゞろに床《ゆか》しく、懷《なつ》かしく、眼《まなこ》を揚《あ》げて、目前《もくぜん》に端然《たんぜん》たる松島大佐《まつしまたいさ》の面《おもて》を瞻《なが》めると、松島大佐《まつしまたいさ》も意味《ゐみ》あり氣《げ》に、私《わたくし》と武村兵曹《たけむらへいそう》の顏《かほ》とを見《み》くらべたが、例《れい》の虎髯大尉《こぜんたいゐ》と一寸《ちよいと》顏《かほ》を見合《みあ》はせて、言葉《ことば》靜《しづ》かに問《と》ひかけた。先《ま》づ私《わたくし》に向《むか》ひ
『貴君《きくん》、今《いま》本艦《ほんかん》水兵《すいへい》と貴君《きくん》の同伴者《どうはんしや》なる武村兵曹《たけむらへいそう》との談話《だんわ》によると、貴君等《きくんら》は、我《わ》が最《もつと》も親密《しんみつ》なる海軍大佐櫻木重雄君《かいぐんたいささくらぎしげをくん》と縁故《えんこ》の人《ひと》の樣《やう》に思《おも》はれるが、果《はた》して左樣《さう》ですか。』といひかけ、頷《うな》づく私《わたくし》の顏《かほ》を打守《うちまも》りて、屹《きつ》と面《おもて》を改《あら》ため
『實《じつ》は先刻《せんこく》貴君等《きくんら》が不思議《ふしぎ》にも大輕氣球《だいけいきゝゆう》と共《とも》に此《この》印度洋《インドやう》の波上《はじやう》に落下《らくか》したと聞《き》いた時《とき》から、私《わたくし》は心《こゝろ》に或《ある》想像《さうざう》を描《えが》いて居《を》るのです。想像《さうざう》とは他《ほか》でもない、貴君等《きくんら》が果《はた》して我《わ》が親愛《しんあい》なる櫻木君《さくらぎくん》と縁故《えんこ》の人《ひと》ならば、今度《こんど》此《この》不思議《ふしぎ》なる出來事《できごと》も、或《あるひ》は櫻木大佐《さくらぎたいさ》の運命《うんめい》に或《ある》關係《くわんけい》を有《いう》して居《を》るのではあるまいかと。私《わたくし》は櫻木君《さくらぎくん》の大望《たいまう》をばよく知《し》つて居《を》ります。また、彼《かれ》が、人《ひと》の知《し》らない此《この》印度洋《インドやう》中《ちう》の一《いつ》孤島《こたう》に、三十|有餘名《いうよめい》の水兵《すいへい》と共《とも》に、身《み》を潜《ひそ》めて居《を》る次第《しだい》をも
前へ
次へ
全302ページ中256ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング