だ此《この》大佐《たいさ》とは甞《かつ》て面會《めんくわい》した事《こと》は無《な》いが、兼《かね》て聞《き》く櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》とは無二《むに》の親友《しんいう》で、また、私《わたくし》の爲《ため》には終世《しゆうせい》忘《わす》るゝ事《こと》の出來《でき》ない、かの春枝夫人《はるえふじん》の令兄《れいけい》――日出雄少年《ひでをせうねん》の爲《ため》には叔父君《おぢぎみ》に當《あた》つて居《を》る人《ひと》。今《いま》から足掛《あしか》け四|年《ねん》以前《いぜん》に、私《わたくし》の親友《しんゆう》濱島武文《はまじまたけぶみ》の妻《つま》なる春枝夫人《はるえふじん》が、本國《ほんごく》の令兄《れいけい》松島海軍大佐《まつしまかいぐんたいさ》の病床《やまひ》を訪《と》はんが爲《た》めに、其《その》良君《をつと》と別《わか》れ、愛兒《あいじ》日出雄少年《ひでをせうねん》を伴《ともな》ふて、伊太利《イタリー》の國《くに》子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]港《かう》を發《はつ》し、私《わたくし》と同《おな》じ※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《ふね》で、はる/″\日本《につぽん》へ歸國《きこく》の途中《とちう》、暗黒《あんこく》なる印度洋《インドやう》の眞中《たゞなか》で恐《おそ》る可《べ》き海賊船《かいぞくせん》の襲撃《しふげき》に遭《あ》ひ、不運《ふうん》なる弦月丸《げんげつまる》の沈沒《ちんぼつ》と共《とも》に、夫人《ふじん》の生死《せいし》は未《ま》だ私《わたくし》には分《わか》らぬ次第《しだい》だが、一時《いちじ》は病《やまひ》の爲《た》めに待命中《たいめいちう》と聞《き》いた其《その》大佐《たいさ》が、今《いま》は却《かへつ》て健康《すこやか》に、此《この》新《あたら》しき軍艦《ぐんかん》「日《ひ》の出《で》」の廻航中《くわいかうちう》とか――さては、と私《わたくし》は忽《たちま》ち思《おも》ひ當《あた》つたのでわる。先刻《せんこく》一目《ひとめ》見《み》て直《す》ぐ誰人《たれ》かに似《に》て居《を》ると想《おも》つたのは其《その》筈《はづ》よ、誰《たれ》あらう、此《この》日《ひ》の出《で》艦長《かんちやう》こそ、春枝夫人《はるえふじん》の令兄《れいけい》、日出雄少年《ひでをせうねん》の叔父君《おぢぎみ》なる松島海軍
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