すこ》しも無《な》く。機關兵《きくわんへい》は機關室《きくわんしつ》を護《まも》り、信號兵《しんがうへい》は戰鬪樓《せんとうらう》に立《た》ち、一|等《とう》、二|等《とう》、三|等《とう》水兵等《すいへいら》は士官《しくわん》の指揮《しき》の下《した》に、今《いま》引揚《ひきあ》げた端艇《たんてい》を收《をさ》めつゝ。たゞ公務《こうむ》の餘暇《よか》ある一團《いちだん》の士官《しくわん》水兵等《すいへいら》が吾等《われら》を唯《と》ある船室《せんしつ》に導《みちび》き、濡《ぬ》れたる衣服《きもの》を脱《ぬ》がせ、新《あたら》しき衣服《ゐふく》を與《あた》へ、中《なか》にも機轉《きてん》よき一|士官《しくわん》は興奮《こうふん》の爲《ため》にと、急《いそ》ぎ「ブランデー」の一|杯《ぱい》をさへ惠《めぐ》んで呉《く》れた。實《じつ》に其《その》軍律《ぐんりつ》の嚴然《げんぜん》たるは今更《いまさら》ながら感嘆《かんたん》の他《ほか》は無《な》いのである。
此時《このとき》、前《さき》に端艇《たんてい》を指揮《しき》して、吾等《われら》兩人《りやうにん》を救《すく》ひ上《あ》げて呉《く》れた、勇《いさ》ましき虎髯大尉《こぜんたいゐ》は、武村兵曹《たけむらへいそう》も私《わたくし》も漸《やうや》く平常《へいじやう》に復《ふく》した顏色《かほいろ》を見《み》て、ツト[#「ツト」に傍点]身《み》を進《すゝ》めた、微笑《びせう》を浮《うか》べながら
『兩君《りようくん》! 君等《きみら》の幸運《かううん》を祝《しゆく》します。』と言《い》つたまゝ、頭《かうべ》を廻《めぐ》らして左右《さいう》を顧見《かへりみ》た時《とき》、忽《たちま》ち、艦《かん》の後部艦橋《こうぶかんけう》を降《くだ》つて、歩調《ほちよう》ゆたかに吾等《われら》の方《かた》に歩《あゆ》んで來《き》た一個《いつこ》の海軍大佐《かいぐんたいさ》があつた。風采《ふうさい》端然《たんぜん》、威風《ゐふう》凛々《りん/\》、言《い》ふ迄《まで》もない、本艦《ほんかん》の艦長《かんちやう》である。
艦長《かんちやう》は既《すで》に虎髯大尉《こぜんたいゐ》よりの報告《ほうこく》によつて、輕氣球《けいきゝゆう》と共《とも》に落下《らくか》した吾等《われら》の二人《ふたり》の日本人《につぽんじん》である事《こと》も、一人《ひと
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