まつた》く顏色《がんしよく》を失《うしな》つた。今一息《いまひといき》といふ間際《まぎわ》になつて、此《この》異變《ゐへん》は何事《なにごと》であらう。あゝ、天《てん》は飽迄《あくまで》我等《われら》に祟《たゝ》るのかと、心《こゝろ》を焦立《いらだ》て、身《み》を藻掻《もが》いたが、如何《いかん》とも詮方《せんかた》が無《な》い。見《み》る/\内《うち》に、大陸《たいりく》の影《かげ》も名殘《なご》りなく、眼界《がんかい》の外《そと》に消《き》え失《う》せてしまうと、其内《そのうち》に風《かぜ》はだん/\烈《はげ》しくなつて來《き》て、はては印度洋《インドやう》で、著名《なだい》の颶風《タイフン》と變《かは》つてしまつた。下界《げかい》を見《み》ると眼《まなこ》も眩《くら》むばかりで、限《かぎ》りなき大洋《たいやう》の面《めん》には、波瀾《はらん》激浪《げきらう》立騷《たちさわ》ぎ、數萬《すまん》の白龍《はくりよう》の一時《いちじ》に跳《をど》るがやうで、ヒユー、ヒユーと帛《きぬ》を裂《さ》くが如《ごと》き風《かぜ》の聲《こゑ》と共《とも》に、千切《ちぎ》つた樣《やう》な白雲《はくうん》は眼前《がんぜん》を掠《かす》めて飛《と》ぶ、實《じつ》に悽愴《せいさう》極《きはま》りなき光景《くわうけい》。勿論《もちろん》、旋風《つむじかぜ》の常《つね》とて一定《いつてい》の方向《ほうかう》はなく、西《にし》に、東《ひがし》に、南《みなみ》に、北《きた》に、輕氣球《けいきゝゆう》は恰《あだか》も鵞毛《がもう》のごとく、天空《てんくう》に舞《ま》ひ揚《あが》り、舞《ま》ひ降《さが》り、マルダイヴ[#「マルダイヴ」に二重傍線]群島《ぐんたう》の上《うへ》を斜《なゝめ》に飛《と》び、ラツカダイヴ[#「ラツカダイヴ」に二重傍線]諸島《しよたう》の空《そら》を流星《りうせい》の如《ごと》く驅《かけ》つて、それから何處《いづく》へ、如何《いか》に行《ゆ》くものやら、四晝夜《しちうや》の間《あひだ》は全《まつた》く夢中《むちう》に空中《くうちう》を飛走《ひさう》したが、其《その》五日目《いつかめ》の午前《ごぜん》になつて、風《かぜ》も漸《やうや》くをさまり、氣球《きゝゆう》の動搖《どうえう》も靜《しづ》まつたので、吾等《われら》ははじめて再生《さいせい》の思《おもひ》をなし。恐《おそ》[#
前へ
次へ
全302ページ中241ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング