、十二の樽《たる》が其《その》一個《いつこ》でも流失《りうしつ》したものならば、吾等《われら》は最早《もはや》本島《ほんたう》から一尺《いつしやく》も外《そと》へ出《で》る事《こと》は出來《でき》ないのです、左樣《さやう》、吾等《われら》が無上《むじやう》の樂《たのしみ》とせる懷《なつ》かしの日本《につぽん》へ歸《かへ》る可《べ》き希望《きぼう》も、全《まつた》く奪去《うばひさ》られたといふものです。』
『嗟呼《あゝ》。』と叫《さけ》んだ儘《まゝ》、私《わたくし》も日出雄少年《ひでをせうねん》も其他《そのた》の水兵等《すいへいら》も茫然自失《ぼうぜんじしつ》した。
昨夜《さくや》の大海嘯《おほつなみ》の悽《すさ》まじき光景《くわうけい》では、其《その》十二の樽《たる》の最早《もはや》一個《いつこ》も殘《のこ》つて居《を》らぬ事《こと》は分《わか》つて居《を》るが、それでも、萬《まん》に一《いち》もと思《おも》つて、吾等《われら》は心《こゝろ》も空《そら》に洞中《どうちう》の秘密造船所《ひみつざうせんじよ》の内部《ないぶ》に驅付《かけつ》けて見《み》たが、不幸《ふこう》にして大佐《たいさ》の言《ことば》は誤《あやま》らなかつた。塲内《じやうない》の光景《くわうけい》は實《じつ》に慘憺《さんたん》たるもので、濁浪《だくらう》怒濤《どたう》は一方《いつぽう》の岩壁《いわかべ》を突破《つきやぶ》つて、奔流《ほんりう》の如《ごと》く其處《そこ》から浸入《しんにふ》したものと見《み》へ、其《その》直《す》ぐ側《そば》の、兼《かね》て發動藥液《はつどうやくえき》の貯藏《ちよぞう》せられて居《を》つた小倉庫《せうさうこ》の鐵《てつ》の扉《とびら》は微塵《みぢん》に碎《くだ》かれて、十二の樽《たる》は何處《いづく》へ押流《おしなが》されたものか、影《かげ》も形《かたち》も無《な》かつた。
大佐《たいさ》は撫然《ぶぜん》として天《てん》を仰《あほ》ぐのみ、一同《いちどう》の顏色《がんしよく》は益々《ます/\》青《あを》くなつた。
あゝ、天上《てんじやう》から地獄《ぢごく》の底《そこ》へ蹴落《けおと》されたとて、人間《にんげん》は斯《か》く迄《まで》失望《しつぼう》するものではあるまい。
一同《いちどう》は詮方《せんかた》なく海岸《かいがん》の家《いへ》に皈《かへ》つたが、全《まつた》く
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