い》もあつたよ。』
兵曹《へいそう》は頭《あたま》を垂《た》れた、私《わたくし》も耳《みゝ》が痛《いた》かつた。話《はなし》の間《あひだ》に、輕氣球《けいきゝゆう》は、かの恐《おそ》ろしき山《やま》と森《もり》と谷《たに》と、又《ま》た惜《をし》む可《べ》き――然《さ》れど今《いま》は要《えう》なき鐵檻車《てつおりぐるま》とを後《あと》にして、風《かぜ》のまに/\空中《くうちう》を飛行《ひかう》して、其日《そのひ》午後《ごゞ》三|時《じ》四十|分《ぷん》項《ごろ》、吾等《われら》は再《ふたゝ》び、懷《なつ》かしき海岸《かいがん》の景色《けしき》を夢《ゆめ》のやうに見《み》おろした時《とき》、海岸《かいがん》に殘《のこ》れる水兵等《すいへいら》も吾等《われら》と認《みと》めたと覺《お》ぼしく、屏風岩《べうぶいわ》の上《うへ》から、大佐《たいさ》の家《いへ》から、手《て》に/\帽《ぼう》を振《ふ》り、手巾《ハンカチーフ》を振廻《ふりまわ》しつゝ、氣球《きゝゆう》の降《くだ》ると見《み》えし海濱《うみべ》を指《さ》して、蟻《あり》のやうに集《あつま》つて來《く》る。其《その》眞先《まつさき》に砂塵《すなけむり》を蹴立《けた》てゝ、驅《かけ》つて來《く》るのはまさしく猛犬稻妻《まうけんいなづま》!
遂《つひ》に、吾等《われら》は、大佐《たいさ》の家《いへ》から四五|町《ちやう》距《へだゝ》つた海岸《かいがん》に降下《かうか》した。勢《いきほひ》よき水兵等《すいへいら》の歡呼《くわんこ》に迎《むか》へられて、輕氣球《けいききゆう》[#ルビの「けいききゆう」は底本では「けいきゆう」]を出《で》ると、日出雄少年《ひでをせうねん》は、第一《だいいち》に稻妻《いなづま》の首輪《くびわ》に抱着《だきつ》いた。二名《にめい》の水兵《すいへい》は仲間《なかま》の一群《ひとむれ》に追廻《おひま》はされて、※[#「りっしんべん+喜」、第4水準2−12−73]々《きゝ》と叫《さけ》びながら逃廻《にげまわ》つた。それは「命拾《いのちひろ》ひのお祝《いわひ》」に、拳骨《げんこつ》が一《ひと》つ宛《づゝ》振舞《ふるま》はれるので『之《これ》は堪《たま》らぬ』と逃《に》げ出《だ》す次第《しだい》だ。勿論《もちろん》戯謔《じやうだん》だが隨分《ずいぶん》迷惑《めいわく》な事《こと》だ。大佐《たいさ》は笑《
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