むらへいそう》である、彼《かれ》は自分《じぶん》の失策《しくじり》から此樣《こん》な事《こと》になつたので堪《たま》らない
『あゝ、馬鹿《ばか》な事《こと》をした/\。私《わたくし》の失策《しくじり》で、貴方《あなた》や日出雄少年《ひでをせうねん》を殺《ころ》したとなつては大佐閣下《たいさかくか》に言譯《いひわけ》がない、此《この》お詫《わ》びには成《な》るか、成《な》らぬか、一《ひと》つ命懸《いのちが》けで猛獸《まうじう》共《ども》を追拂《おつぱら》つて見《み》るのだ。』と决死《けつし》の色《いろ》で、車外《しやぐわい》へ飛出《とびだ》さうとする。
『無謀《ばか》な事《こと》をするな。』と私《わたくし》は嚴然《げんぜん》として
『武村兵曹《たけむらへいそう》、お前《まへ》に鬼神《きじん》の勇《ゆう》があればとて、あの澤山《たくさん》の猛獸《まうじう》と鬪《たゝか》つて何《なに》になる。』と矢庭《やにわ》に彼《かれ》の肩先《かたさき》を握《つか》んで後《うしろ》へ引戻《ひきもど》した。此時《このとき》猛犬稻妻《まうけんいなづま》は、一聲《いつせい》銃《するど》く唸《うな》つて立上《たちあが》つた。
『此處《こゝ》に唯《た》だ一策《いつさく》があるよ。』と私《わたくし》は一同《いちどう》に向《むか》つたのである。
『一策《いちさく》とは。』と一同《いちどう》は顏《かほ》を上《あ》げた。
『他《ほか》でもない、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》に此《この》急難《きふなん》を報知《ほうち》して救助《たすけ》を求《もと》めるのだ。』
『大佐《たいさ》に救助《たすけ》を※[#疑問符感嘆符、1−8−77]。』と一同《いちどう》は不審顏《ふしんがほ》。
成程《なるほど》、此處《こゝ》から大佐等《たいさら》の住《すま》へる海岸《かいがん》の家《いへ》までは三十|里《り》以上《いじやう》、飛《と》ぶ鳥《とり》でもなければ通《かよ》はれぬ此《この》難山《なんざん》を、如何《いか》にして目下《もつか》の急難《きふなん》を報知《ほうち》するかと審《いぶか》るのであらう。
私《わたくし》は决然《けつぜん》として言《い》つた。
『猛犬稻妻《まうけんいなづま》を使者《ししや》として。』
第二十回 猛犬《まうけん》の使者《ししや》
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山又山を越えて三十里――一封
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