立《けんりつ》も終《をは》つたので、最早《もはや》歸途《きと》に向《むか》ふ一方《いつぽう》である。往復《わうふく》五日《いつか》の豫定《よてい》が、其《その》二日目《ふつかめ》には首尾《しゆび》よく歸終《きろ》に就《つ》くやうになつたのは、非常《ひじやう》な幸運《こううん》である。此《この》幸運《こううん》に乘《じやう》じて、吾等《われら》は温順《すなほ》に昨日《きのふ》の道《みち》を皈《かへ》つたならば、明日《めうにち》の今頃《いまごろ》には再《ふたゝ》び海岸《かいがん》の櫻木大佐《さくらぎたいさ》の家《いへ》に達《たつ》し、此《この》旅行《りよかう》も恙《つゝが》なく終《をは》るのであるが、人間《にんげん》は兎角《とかく》いろ/\な冐險《ぼうけん》がやつて見《み》たい者《もの》だ。
好事魔《こうじま》多《おほ》しとはよく人《ひと》の言《い》ふ處《ところ》で、私《わたくし》も其《その》理屈《りくつ》を知《し》らぬではないが、人間《にんげん》の一生《いつせう》に此樣《こん》な旅行《りよかう》は、二度《にど》も三度《さんど》もある事《こと》でない、其上《そのうへ》大佐《たいさ》と約束《やくそく》の五日目《いつかめ》までは、未《ま》た三日《みつか》の間《ひま》がある、そこで、此《この》深山《しんざん》を少《すこ》しばかり迂回《うくわい》して皈《かへ》つたとて、左程《さほど》遲《おそ》くもなるまい、また極《きわ》めて趣味《しゆみ》ある事《こと》だらうと考《かんが》へたので、私《わたくし》は發議《はつぎ》した。
『どうだ、最早《もはや》皈途《きと》に向《むか》ふのだが、之《これ》から少《すこ》し道《みち》を變《へん》じて進《すゝ》んでは、舊《ふる》き道《みち》を皈《かへ》るより、新《あたら》しい方面《ほうめん》から皈《かへ》つたら、またいろ/\珍奇《めづらし》い事《こと》も多《おほ》からう。』と話《はな》しかけると、好奇《ものずき》の武村兵曹《たけむらへいそう》は一も二もなく賛成《さんせい》だ。
『私《わたくし》も今《いま》、左樣《さう》考《かんが》へて居《を》つた處《ところ》だ、大佐閣下《たいさかくか》だつて私共《わたくしども》が、其樣《そんな》に早《はや》く歸《かへ》らうとは思《おも》つて居《ゐ》なさるまいし、それにね、約束《やくそく》の五日目《いつかめ》の晩《ばん》
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