だ往生《わうじやう》しないか。』と、手頃《てごろ》の鎗《やり》を捻《ひね》つて其《その》心臟《しんぞう》を貫《つらぬ》くと、流石《さすが》の猛獸《まうじう》も堪《たま》らない、雷《いかづち》の如《ごと》く唸《うな》つて、背部《うしろ》へドツと倒《たを》れた。
『愉快《ゆくわい》々々、世界一《せかいいち》の王樣《わうさま》だつて、此樣《こん》な面白《おもしろ》い目《め》は見《み》られるものでない。』と水兵《すいへい》共《ども》は雀躍《じやくやく》した。日出雄少年《ひでをせうねん》は猛狒《ゴリラ》の死骸《しがい》を流盻《ながしめ》に見《み》やりて
『それでも、私《わたくし》は殘念《ざんねん》です、猛狒《ゴリラ》は私《わたくし》の鐵砲《てつぽう》では死《し》にませんもの。』と不平顏《ふへいがほ》。
『何《なに》、左樣《さう》でない、此《この》獸《じう》は泥土《どろ》と、松脂《まつやに》とで、毛皮《けがわ》を鐵《てつ》のやうに固《かた》めて居《を》るのだから、小銃《せうじう》の彈丸《たま》位《ぐらい》では容易《ようゐ》に貫《つらぬ》く事《こと》が出來《でき》ないのさ。』と私《わたくし》は慰《なぐさ》めた。
此《この》大騷動《だいさうどう》の後《のち》は、猛獸《まうじう》も我等《われら》の手並《てなみ》を恐《おそ》れてか、容易《ようゐ》に近《ちか》づかない、それでも此處《こゝ》を立去《たちさ》るではなく、四五間《しごけん》を距《へだ》てゝ遠卷《とほまき》に鐵檻《てつおり》の車《くるま》を取圍《とりま》きつゝ、猛然《まうぜん》と吼《ほ》えて居《を》る。慓輕《へうきん》なる武村兵曹《たけむらへいそう》は大口《おほぐち》開《あ》いてカラ/\と笑《わら》ひ
『ヤイ、ヤイ、畜類《ちくるい》、其樣《そんな》に吾等《おいら》の肉《にく》が美味《うま》相《さう》に見《み》えるのか。』とつか/\鐵檻《てつおり》の近《ちか》くに進《すゝ》み寄《よ》り
『それ此《この》拳骨《げんこつ》でも喰《くら》へ。』と大膽《だいたん》にも鐵拳《てつけん》を車外《しやぐわい》に突出《つきだ》し、猛獸《まうじう》怒《いか》つて飛付《とびつ》いて來《く》る途端《とたん》ヒヨイと其《その》手《て》を引込《ひきこ》まして
『だ、だ、駄目《だめ》だんべい。』

    第十九回 猛獸隊《まうじうたい》
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