櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》の健康《けんこう》は言《い》ふ迄《まで》もなく、此頃《このごろ》では殆《ほとん》ど終日《しうじつ》終夜《しうや》を、秘密造船所《ひみつぞうせんじよ》の中《なか》で送《おく》つて居《を》る。武村兵曹《たけむらへいそう》は相變《あひかは》らず淡白《たんぱく》[#ルビの「たんぱく」は底本では「たぱく」]で、慓輕《へうきん》で、其他《そのほか》三十|有餘名《いうよめい》の水兵等《すいへいら》も一同《いちどう》元氣《げんき》よく、大《だい》なる希望《きぼう》の日《ひ》を待望《まちのぞ》みつゝ、勤勉《きんべん》に働《はたら》いて居《を》る。
かゝる喜《よろこ》ばしき境遇《きやうぐう》の間《あひだ》に、首尾《しゆび》よく竣成《しゆんせい》した自動鐵檻車《じどうてつおりぐるま》は、終《つひ》に洞中《どうちう》の工作塲《こうさくば》を出《で》た。例《れい》の屏風岩《べうぶいは》の上《うへ》から直《たゞ》ちに運轉《うんてん》を試《こゝろ》みて見《み》ると最良《さいりよう》の結果《けつくわ》で、號鈴《がうれい》リン/\と鳴《な》りひゞき、不思議《ふしぎ》なる機關《きくわん》の活溌《くわつぱつ》なる運轉《うんてん》に從《したが》つて十二|個《こ》の外車輪《ぐわいしやりん》が、岩《いは》を噛《か》み、泥《どろ》を蹴《け》つて疾走《しつさう》する有樣《ありさま》は、吾《われ》ながら見事《みごと》に思《おも》はるゝばかり、暫時《しばし》喝采《かつさい》の聲《こゑ》は止《や》まなかつた。忽《たちま》ち何人《だれ》の發聲《おんど》にや、一團《いちだん》の水兵等《すいへいら》はバラ/\と私《わたくし》の周圍《めぐり》に走寄《はしりよ》つて『鐵車《てつしや》萬歳《ばんざい》々々々々。』と私《わたくし》の胴上《どうあ》げを始《はじ》めた。萬歳《ばんざい》は難有《ありがた》いが、鬼《おに》とも組《く》まんず荒男《あらくれをとこ》が、前後左右《ぜんごさゆう》からヤンヤヤンヤと揉上《もみあ》げるので、其《その》苦《くる》しさ、私《わたくし》は呼吸《いき》が止《と》まるかと思《おも》つた。
斯《か》うなると、一刻《いつこく》も眤《じつ》として居《を》られぬのは武村兵曹《たけむらへいそう》である。腕拱《うでこまぬ》いて、一心《いつしん》に鐵檻車《てつおりぐるま》の運轉《うんてん
前へ
次へ
全302ページ中187ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング