《かほ》をせぬ事《こと》と、それから極《ご》く記臆力《きおくりよく》が強《つよ》く、規則《ルール》[#ルビの「ルール」は底本では「レール」]などは直《す》ぐ覺《おぼ》えてしまうので、武村兵曹《たけむらへいそう》は此《この》兒《こ》將來《しやうらい》は非常《ひじやう》に有望《いうぼう》な撰手《せんしゆ》であると語《かた》つたが啻《たゞ》に野球《やきゆう》ばかりではなく彼《かれ》は※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、230−6]去《くわこ》三|年《ねん》の間《あひだ》、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》の嚴肅《げんしゆく》なる、且《か》つ慈悲《じひ》深《ふか》き手《て》に親《した》しく薫陶《くんとう》された事《こと》とて、今年《ことし》十二|歳《さい》の少年《せうねん》には珍《めづ》らしき迄《まで》に大人似《おとなび》て、氣象《きしよう》の凛々《りゝ》しい、擧動《きよどう》の沈着《ちんちやく》な、まるで、小櫻木大佐《せうさくらぎたいさ》を茲《こゝ》に見《み》るやうな、雄壯《をゝ》しき少年《せうねん》とはなつた。少年《せうねん》は端艇《たんてい》、野球等《やきゆうとう》の他《ほか》、暇《ひま》があると石《いし》を投《な》げる、樹《き》に登《のぼ》る、猛犬稻妻《まうけんいなづま》を曳《ひき》つれて野山《のやま》を驅《か》けめぐる、其爲《そのため》に體格《たいかく》は非常《ひじやう》に見事《みごと》に發達《はつたつ》して、以前《いぜん》には人形《にんぎよう》のやうに奇麗《きれい》であつた顏《かほ》の、今《いま》は少《すこ》しく色《いろ》淺黒《あさぐろ》くなつて、それに口元《くちもと》キリ、と締《しま》り、眼《め》のパツチリとした樣子《やうす》は、何《なに》とも云《い》へず勇《いさ》ましい姿《すがた》、此後《このゝち》機會《きくわい》が來《き》て、彼《かれ》が父君《ちゝぎみ》なる濱島武文《はまじまたけぶみ》に再會《さいくわい》した時《とき》、父《ちゝ》は如何《いか》に驚《おどろ》くだらう。またかの天女《てんによ》の如《ごと》き春枝夫人《はるえふじん》が、萬一《まんいち》にも無事《ぶじ》であつて、此《この》勇《いさ》ましい姿《すがた》を見《み》たならば、どんなに驚《おどろ》き悦《よろこ》ぶ事《こと》であらう。
今《いま》や本島《ほんとう》の主人公《しゆじんこう》なる
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