を立《た》てると、大佐《たいさ》はツト身《み》を起《おこ》して私《わたくし》の手《て》を握《にぎ》り
『誓《ちかひ》は形式《けいしき》です。けれど愛國《あいこく》の情《じやう》深《ふか》き君《きみ》は、※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、176−4]《あやま》つても此《この》秘密《ひみつ》をば、無用《むよう》の人《ひと》に洩《もら》し玉《たま》ふな。』
『斷《だん》じて/\、たとへ此《この》唇《くちびる》が裂《さ》かるゝとも。』と私《わたくし》は斷乎《だんこ》として答《こた》へた。大佐《たいさ》は微笑《びせう》を帶《を》びて私《わたくし》の顏《かほ》を眺《なが》めた。さて其《その》秘密《ひみつ》は如何《いか》なる物《もの》にや、此《この》夜《よ》はたゞ誓《ちかひ》に終《をは》つて、詳密《つまびらか》なる事《こと》は、明日《めうにち》、其《その》秘密《ひみつ》の潜《ひそ》められたる塲所《ばしよ》に於《おい》て、實物《じつぶつ》に就《つい》て、明白《めいはく》に示《しめ》さるゝとの事《こと》、此《この》夜《よ》は其儘《そのまゝ》寢床《ねどこ》に横《よこたは》つたが、いろ/\の想像《さうぞう》に驅《か》られて、深更《しんこう》まで夢《ゆめ》に入《い》る事《こと》が出來《でき》なかつた。
人間《にんげん》は勝手《かつて》なもので、私《わたくし》は前夜《ぜんや》は夜半《やはん》まで眠《ねむ》られなかつたに係《かゝは》らず、翌朝《よくあさ》は暗《くら》い内《うち》から目《め》が醒《さ》めた。五|時《じ》三十|分《ぷん》頃《ごろ》、櫻木大佐《さくらぎたいさ》は武村兵曹《たけむらへいそう》を伴《ともな》つて、私《わたくし》の部室《へや》の戸《と》を叩《たゝ》いた。之《これ》より其《その》秘密《ひみつ》なる塲所《ばしよ》へ出掛《でか》けるのである。
三人《みたり》は家《いへ》を出《い》で、朝霧《あさぎり》深《ふか》き海岸《かいがん》を北《きた》へと進《すゝ》んだ。武村兵曹《たけむらへいそう》は猛犬《まうけん》の稻妻《いなづま》を從《したが》へて、常《つね》に十歩《じつぽ》ばかり前《さき》へ進《すゝ》むので、私《わたくし》と大佐《たいさ》とは相《あひ》並《なら》んで歩《あゆ》んだが、一言《いちごん》も無《な》い。あゝ、其《その》秘密《ひみつ》なる發明《はつめい》とは何《なん》
前へ 次へ
全302ページ中142ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング