けられてあるなど、流石《さすが》に海軍士官《かいぐんしくわん》の居室《ゐま》と見受《みう》けられた。
大佐《たいさ》の好遇《かうぐう》にて、此處《こゝ》で、吾等《われら》は水兵等《すいへいら》が運《はこ》んで來《き》た珈琲《カフヒー》に咽《のど》を霑《うる》ほうし、漂流《へうりう》以來《いらい》大《おほい》に渇望《かつぼう》して居《を》つた葉卷煙葉《はまきたばこ》も充分《じゆうぶん》に喫《す》ひ、また料理方《れうりかた》の水兵《すいへい》の手製《てせい》の由《よし》で、極《きは》めて形《かたち》は不細工《ぶさいく》ではあるが、非常《ひじやう》に甘味《うま》い菓子《くわし》に舌皷《したつゞみ》打《う》ちつゝ、稍《や》や十五|分《ふん》も※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、152−10]《すぎ》たと思《おも》ふ頃《ころ》、時計《とけい》は午後《ごご》の六時《ろくじ》を報《ほう》じて、日永《ひなが》の五|月《ぐわつ》の空《そら》も、夕陽《ゆふひ》西山《せいざん》に舂《うすつ》くやうになつた。
此時《このとき》大佐《たいさ》は徐《しづ》かに立上《たちあが》り、私《わたくし》に向《むか》ひ
『吾等《われら》は之《これ》より一定《いつてい》の職務《しよくむ》があるので、暫時《しばらく》失敬《しつけい》、君等《きみら》は後《のち》に靜《しづか》に休息《きうそく》し玉《たま》へ、私《わたくし》は八|時《じ》※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、153−3]《すぎ》再《ふたゝ》び皈《かへ》つて來《き》て、晩餐《ばんさん》をば共《とも》に致《いた》しませう。』と言《い》ひ殘《のこ》して何處《いづく》ともなく立去《たちさ》つた。
後《あと》へ例《れい》の快活《くわいくわつ》なる武村兵曹《たけむらへいそう》がやつて來《き》て、武骨《ぶこつ》なる姿《すがた》に似《に》ず親切《しんせつ》に、吾等《われら》の海水《かいすい》に染《し》み、天日《てんぴ》に焦《こが》されて、ぼろ/\になつた衣服《ゐふく》の取更《とりか》へやら、洗湯《せんたう》の世話《せわ》やら、日出雄少年《ひでをせうねん》の爲《ため》には、特《こと》に小形《こがた》の「フランネル」の水兵服《すいへいふく》を、裁縫係《さいほうがゝり》の水兵《すいへい》に命《めい》ずるやら、いろ/\取計《とりはか》らつて呉《く》れる
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