ん》は、却《かへつ》て危險《きけん》の多《おほ》いので、吾等《われら》三人《みたり》は全《まつた》く離《はな》れて、ずつと船首《せんしゆ》の海圖室《かいづしつ》の側《ほとり》に身《み》を寄《よ》せた。此《この》塲合《ばあひ》に第《だい》一に私《わたくし》の胸《むね》をうつたのは、此《この》航海《かうかい》のはじめネープルス[#「ネープルス」に二重傍線]港《かう》を出《い》づる時《とき》、濱島《はまじま》に堅《かた》く約《やく》して、夫人《ふじん》と其《その》愛兒《あいじ》との身《み》の上《うへ》は、私《わたくし》の生命《いのち》に懸《か》けてもと堅《かた》く請合《うけあ》つた事《こと》、今《いま》、此《この》危急《ききふ》の塲合《ばあひ》に臨《のぞ》んで、私《わたくし》の身命《しんめい》は兎《と》もあれ、此《この》二人《ふたり》丈《だ》[#ルビの「だ」は底本では「た」]けは如何《どう》しても救《すく》はねばならぬのだ。
船《ふね》は秒一秒《べういちべう》に沈《しづ》んで行《ゆ》く、甲板《かんぱん》の叫喚《けうくわん》はます/\激《はげ》しくなつた。終《つひ》に「端艇《たんてい》下《おろ》せい。」の號令《がうれい》は響《ひゞ》いて、第《だい》一の端艇《たんてい》は波上《はじやう》に降下《くだ》つた。此時《このとき》私《わたくし》は春枝夫人《はるえふじん》を見返《みかへ》つたのである。
『いざ、夫人《おくさん》、避難《ひなん》の用意《ようゐ》を。』と。すべて海上《かいじやう》の規則《きそく》として、斯《かゝ》る塲合《ばあひ》に第《だい》一に下《くだ》されたる端艇《たんてい》は一等船客《いつとうせんきやく》のため、第《だい》二が二等船客《にとうせんきやく》、第《だい》三が三等船客《さんとうせんきやく》、總《すべ》ての船客《せんきやく》の免《のが》れ去《さ》つた後《あと》に、猶殘《なほのこ》る端艇《たんてい》があれば、其時《そのとき》はじめて船員等《せんゐんら》の避難《ひなん》の用《よう》に供《けう》せらるゝのである。で私《わたくし》は今《いま》第《だい》一|端艇《たんてい》の下《くだ》ると共《とも》に、吾等《われら》一等船客《いつとうせんきやく》たるの權利《けんり》をもつて、春枝夫人《はるえふじん》と日出雄少年《ひでをせうねん》とを誘《いざな》つたのである。勿論《もちろん
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