やうや》の家鴨《あひる》を射殺《ゐころ》して、辛《から》き目《め》に出逢《であ》つた話《はなし》や、春季《はる》の大運動會《だいうんどうくわい》に、彼《かれ》と私《わたくし》とはおの/\級《くみ》の撰手《チヤンピオン》となつて、必死《ひつし》に優勝旗《チヤンピオンフラグ》を爭《あらそ》つた事《こと》や、其他《そのほか》さま/″\の懷舊談《くわいきうだん》も出《で》て、時《とき》の移《うつ》るのも知《し》らなかつたが、ふと氣付《きづ》くと、當家《このや》の模樣《もやう》が何《なに》となく忙《いそ》がし相《さう》で、四邊《あたり》の部室《へや》では甲乙《たれかれ》の語《かた》り合《あ》ふ聲《こゑ》喧《かまびす》しく、廊下《ろうか》を走《はし》る人《ひと》の足音《あしおと》もたゞならず速《はや》い、濱島《はまじま》は昔《むかし》から極《ご》く沈着《ちんちやく》な人《ひと》で、何事《なにごと》にも平然《へいぜん》と構《かま》へて居《を》るから夫《それ》とは分《わか》らぬが、今《いま》珈琲《カツヒー》を運《はこ》んで來《き》た小間使《こまづかひ》の顏《かほ》にも其《その》忙《いそ》がしさが見《み》へるので、若《も》しや、今日《けふ》は不時《ふじ》の混雜中《こんざつちう》ではあるまいかと氣付《きづ》いたから、私《わたくし》は急《きふ》に顏《かほ》を上《あ》げ
『何《なに》かお急《いそ》がしいのではありませんか。』と問《と》ひかけた。
『イヤ、イヤ、决《けつ》して御心配《ごしんぱい》なく。』と彼《かれ》は此時《このとき》珈琲《カツヒー》を一口《ひとくち》飮《の》んだが、悠々《ゆう/\》と鼻髯《びぜん》を捻《ひね》りながら
『何《なに》ね、實《じつ》は旅立《たびだ》つ者《もの》があるので。』
オヤ、何人《どなた》が何處《どこ》へと、私《わたくし》が問《と》はんとするより先《さき》に彼《かれ》は口《くち》を開《ひら》いた。
『時《とき》に柳川君《やながはくん》、君《きみ》は當分《たうぶん》此《この》港《みなと》に御滯在《おとまり》でせうねえ、それから、西班牙《イスパニヤ》の方《はう》へでもお廻《まは》りですか、それとも、更《さら》に歩《ほ》を進《すゝ》めて、亞弗利加《アフリカ》探險《たんけん》とでもお出掛《でか》けですか。』
『アハヽヽヽ。』と私《わたくし》は頭《つむり》を掻《か》い
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