、それは斯《か》う行《い》つて、あゝ行《い》つて。』と口《くち》と手眞似《てまね》で窓《まど》から首《くび》を突出《つきだ》して
『あれ/\、あそこに見《み》へる宏壯《りつぱ》な三|階《がい》の家《いへ》!』
天外《てんぐわい》萬里《ばんり》の異邦《ゐほう》では、初對面《しよたいめん》の人《ひと》でも、同《おな》じ山河《やまかは》の生《うま》れと聞《き》けば懷《なつ》かしきに、まして昔馴染《むかしなじみ》の其人《そのひと》が、現在《げんざい》此《この》地《ち》にありと聞《き》いては矢《や》も楯《たて》も堪《たま》らない、私《わたくし》は直《す》ぐと身仕度《みじたく》を整《とゝの》へて旅亭《やどや》を出《で》た。
旅亭《やどや》の禿頭《はげあたま》に教《をし》へられた樣《やう》に、人馬《じんば》の徃來《ゆきゝ》繁《しげ》き街道《かいだう》を西《にし》へ/\と凡《およ》そ四五|町《ちやう》、唯《と》ある十字街《よつかど》を左《ひだり》へ曲《まが》つて、三|軒目《げんめ》の立派《りつぱ》な煉瓦造《れんぐわづく》りの一構《ひとかまへ》、門《かど》に |T. Hamashima《はまじまたけぶみ》, と記《しる》してあるのは此處《こゝ》と案内《あんない》を乞《こ》ふと、直《す》ぐ見晴《みはら》しのよい一室《ひとま》に通《とう》されて、待《ま》つ程《ほど》もなく靴音《くつおと》高《たか》く入《い》つて來《き》たのはまさしく濱島《はまじま》! 十|年《ねん》相《あひ》見《み》ぬ間《ま》に彼《かれ》には立派《りつぱ》な八字髯《はちじひげ》も生《は》へ、其《その》風采《ふうさい》も餘程《よほど》變《ちが》つて居《を》るが相變《あひかは》らず洒々落々《しや/\らく/\》の男《おとこ》『ヤァ、柳川君《やながはくん》か、これは珍《めづ》らしい、珍《めづ》らしい。』と下《した》にも置《お》かぬ待遇《もてなし》、私《わたくし》は心《しん》から※[#「りっしんべん+喜」、第4水準2−12−73]《うれ》しかつたよ。髯《ひげ》は生《は》へても友達《ともだち》同士《どうし》の間《あひだ》は無邪氣《むじやき》なもので、いろ/\の話《はなし》の間《あひだ》には、昔《むかし》倶《とも》に山野《さんや》に獵暮《かりくら》して、※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、6−5]《あやまつ》て農家《ひやくし
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