てんくう》を照《てら》し、つゞいてサツ[#「サツ」に傍点]とばかり、其《その》眩《まば》ゆき光《ひかり》を我《わ》が甲板《かんぱん》に放《な》げると共《とも》に、※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]笛《きてき》一二|聲《せい》、波《なみ》を蹴立《けた》てゝます/\進航《しんかう》の速力《そくりよく》を速《はや》めた。
見《み》る/\内《うち》に怪《あやし》の船《ふね》の白色檣燈《はくしよくしやうとう》は我《わ》が弦月丸《げんげつまる》の檣燈《しやうとう》と並行《へいかう》になつた――早《は》や、彼方《かなた》の右舷《うげん》の緑燈《りよくとう》は我《わ》が左舷《さげん》の紅燈《こうとう》を尻眼《しりめ》にかけて、一|米突《メートル》――二|米突《メートル》――三|米突《メートル》――端艇《ボート》ならば少《すくな》くも半艇身《はんていしん》以上《いじやう》我《わ》が船《ふね》を乘越《のりこ》した。
此時《このとき》!
私《わたくし》は如何《いか》にもして、かの怪《あやし》の船《ふね》の正體《しやうたい》を見屆《みとゞ》けんものをと、身《み》を飜《ひるがへ》して左舷船首《さげんせんしゆ》に走《はし》り、眼《まなこ》を皿《さら》のやうにして其《その》船《ふね》の方《かた》を見詰《みつ》めたが、月無《つきな》く、星影《ほしかげ》も稀《まれ》なる海《うみ》の面《おもて》は、百|米突《メートル》――二百|米突《メートル》とは距《へだ》たらぬのに黒暗々《こくあん/\》として咫尺《しせき》を辨《べん》じない。加《くは》ふるに前檣々頭《ぜんしやうしやうとう》に一點《いつてん》の白燈《はくとう》と、左舷《さげん》の紅燈《こうとう》は見《み》えで、右舷《うげん》に毒蛇《どくじや》の巨眼《まなこ》の如《ごと》き緑色《りよくしよく》の舷燈《げんとう》を現《あらは》せる他《ほか》は、船橋《せんけう》にも、甲板《かんぱん》にも、舷窓《げんさう》からも、一個《いつこ》の火影《ほかげ》を見《み》せぬかの船《ふね》は、殆《ほと》んど闇黒《やみ》に全體《ぜんたい》を包《つゝ》まれて居《を》つたが、私《わたくし》の一念《いちねん》の屆《とゞ》いて幾分《いくぶ》か神經《しんけい》の鋭《するど》くなつた爲《ため》か、それとも瞳《ひとみ》の漸《やうや》く闇黒《あんこく》に馴《な》れた爲《ため》か、私
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