》に怪《あやし》の船《ふね》はます/\接近《せつきん》し來《きた》つて、白《しろ》、紅《あか》、緑《みどり》の燈光《とうくわう》は闇夜《やみ》に閃《きら》めく魔神《まじん》の巨眼《まなこ》のごとく、本船《ほんせん》の左舷《さげん》後方《こうほう》約《やく》四五百|米突《メートル》の所《ところ》に輝《かゞや》いて居《を》る。
私《わたくし》は胸《むね》を跳《をど》らせつゝ我《わ》が甲板《かんぱん》の前後《ぜんご》左右《さいう》を眺《なが》めた。例《れい》のビール樽《だる》船長《せんちやう》は此時《このとき》私《わたくし》の頭上《づじやう》に當《あた》る船橋《せんけう》の上《うへ》に立《た》つて、頻《しき》りに怪《あやし》の船《ふね》の方向《ほうかう》を見詰《みつ》めて居《を》つたが、先刻《せんこく》遙《はる》か/\の海上《かいじやう》に朦乎《ぼんやり》と三個《さんこ》の燈光《ともしび》を認《みと》めた間《あひだ》こそ、途方《とほう》も無《な》い事《こと》を言《い》つて居《を》つたものゝ、最早《もはや》斯《か》うなつては其樣《そん》な無※[#「(禾+尤)/上/日」、92−4]《ばか》な事《こと》は言《い》つて居《を》られぬ。
『はてさて、妙《めう》だぞ、あれは矢《や》ツ張《ぱり》※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《きせん》だわい、して見《み》ると今月《こんげつ》の航海表《かうかいへう》に錯誤《まちがい》があつたのかしらん。』と言《い》ひつゝ、仰《あほ》いで星影《ほしかげ》淡《あは》き大空《おほぞら》を眺《なが》めたが
『いや、いや、如何《どう》考《かんが》へても今時分《いまじぶん》あんな船《ふね》に此《この》航路《かうろ》で追越《おひこ》される筈《はづ》はないのだ。』と見《み》る/\内《うち》に不安《ふあん》の顏色《いろ》が現《あら》はれて來《き》た。
此時《このとき》はすでに澤山《たくさん》の船員等《せんゐんら》は此處彼處《こゝかしこ》から船橋《せんけう》の邊《ほとり》を指《さ》して集《あつま》つて來《き》た。いづれも愕《おどろ》いた樣《やう》な、審《いぶか》るやうな顏《かほ》で、今《いま》やます/\接近《せつきん》し來《きた》る怪《あやし》の船《ふね》の燈光《とうくわう》を眺《なが》めて居《を》る。
『實《じつ》に不思議《ふしぎ》だ――あの船脚《ふなあ
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