ん》を焚《た》いて逃《に》げやうとも如何《いか》で逃《に》げ終《を》うする事《こと》が出來《でき》やう。勿論《もちろん》、かの船《ふね》は私《わたくし》の想像《さうざう》するが如《ごと》き海賊船《かいぞくせん》であつたにしろ、左樣《さう》無謀《むぼう》には本船《ほんせん》を撃沈《げきちん》するやうな事《こと》はあるまい、印度洋《インドやう》の平均水深《へいきんすいしん》は一|千《せん》八|百《ひやく》三十|尋《ひろ》、其樣《そん》な深《ふか》い所《ところ》で輕々《かろ/″\》しく本船《ほんせん》を撃沈《げきちん》した處《ところ》で、到底《たうてい》かの船《ふね》の目的《もくてき》を達《たつ》する事《こと》は出來《でき》まいから。けれど、彼方《かなた》天魔《てんま》鬼神《きじん》を欺《あざむ》く海賊船《かいぞくせん》ならば一度《ひとたび》睨《にら》んだ船《ふね》をば如何《いか》でか其儘《そのまゝ》に見遁《みのが》すべき。事《こと》面倒《めんだう》と思《おも》はゞ、昔話《むかしばなし》に聞《き》く海賊船《かいぞくせん》の戰術《せんじゆつ》を其儘《そのまゝ》に、鋭《するど》き船首《せんしゆ》は眞一文字《まいちもんじ》に此方《こなた》に突進《とつしん》し來《きた》つて、手《て》に/\劍戟《けんげき》を振翳《ふりかざ》せる異形《ゐげう》の海賊《かいぞく》輩《ども》は亂雲《らんうん》の如《ごと》く我《わ》が甲板《かんぱん》に飛込《とびこ》んで來《く》るかも知《し》れぬ。若《も》し然《さ》なくば隱見《ゐんけん》出沒《しゆつぼつ》、氣長《きなが》く我《わが》船《ふね》の後《あと》を追《お》ふ内《うち》、本船《ほんせん》が何時《いつ》か海水《かいすい》淺《あさ》き島嶼《たうしよ》の附近《ふきん》か、底《そこ》に大海礁《だいかいせう》の横《よこたは》る波上《はじやう》にでも差懸《さしか》かつた時《とき》、風《かぜ》の如《ごと》く來《きた》り、雲《くも》の如《ごと》く現《あら》はれ出《い》でゝ、一|撃《げき》の下《もと》に其處《そこ》に我《わ》が船《ふね》を撃沈《げきちん》する積《つもり》かも知《し》れぬ。
斯《か》う考《かんが》へると實《じつ》に底氣味《そこきみ》の惡《わる》いも/\、私《わたくし》は心《こゝろ》の底《そこ》から寒《さむ》くなつて來《き》た。
兎角《とかく》する程《ほど
前へ 次へ
全302ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング