達《たつ》する限《かぎ》り島嶼《たうしよ》などのあらう筈《はづ》はない、まして約《やく》一|分《ぷん》の間隙《かんげき》をもつて發射《はつしや》する火箭《くわぜん》及《およ》び星火榴彈《せいくわりうだん》は危急存亡《きゝふそんぼう》を告《つ》ぐる難破船《なんぱせん》の夜間信號《やかんしんがう》※[#感嘆符三つ、75−11]
『やア、大變《たいへん》だ/\。』と叫《さけ》びつゝ私《わたくし》は本船《ほんせん》の右舷《うげん》左舷《さげん》を眺《なが》めた。船《ふね》には當番《たうばん》水夫《すゐふ》あり。海上《かいじやう》に起《おこ》る千|差萬別《さばんべつ》の事變《じへん》をば一も見遁《みのが》すまじき筈《はづ》の其《その》見張番《みはりばん》は今《いま》や何《なに》をか爲《な》すと見廻《みま》はすと、此時《このとき》右舷《うげん》の當番《たうばん》水夫《すゐふ》は木像《もくざう》の如《ごと》く船首《せんしゆ》の方《かた》に向《むか》つたまゝ、今《いま》の微《かすか》な砲聲《ほうせい》は耳《みゝ》にも入《い》らぬ樣子《やうす》、あらぬ方《かた》を眺《なが》めて居《を》る。左舷《さげん》の當番《たうばん》水夫《すゐふ》は今《いま》や確《たしか》に星火《せいくわ》迸《ほとばし》り、火箭《くわせん》飛《と》ぶ慘憺《さんたん》たる難破船《なんぱせん》の信號《しんがう》を認《みと》めて居《を》るには相違《さうゐ》ないのだが、何故《なぜ》か平然《へいぜん》として動《どう》ずる色《いろ》もなく、籠手《こて》を翳《かざ》して其方《そなた》を眺《なが》めて居《を》るのみ。
『當番《たうばん》水夫《すゐふ》! 何《なに》を茫然《ぼんやり》して居《を》るかツ※[#感嘆符三つ、76−8]』と叫《さけ》んだまゝ、私《わたくし》は身《み》を飜《ひるがへ》して船長室《せんちやうしつ》の方《かた》へ走《はし》つた。勿論《もちろん》、船《ふね》に嚴然《げんぜん》たる規律《きりつ》のある事《こと》は誰《たれ》も知《し》つて居《を》る、たとへ霹靂《へきれき》天空《てんくう》に碎《くだ》けやうとも、數萬《すうまん》の魔神《まじん》が一|時《じ》に海上《かいじやう》に現出《あらは》れやうとも、船員《せんゐん》ならぬ者《もの》が船員《せんゐん》の職權《しよくけん》を侵《おか》して、之《これ》を船長《せんちやう
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