な箱を室《へや》の隅から持出し、
「阿父様、不思議と云えば不思議でしょう、此様《こん》な箱が森林の中に落ちて居りました」と答えた。
伯爵は其箱を見、この答えを聴くより、忽《たちま》ち露子の腕を取って、其腕に玉村《たまむら》侯爵から贈って来た腕環《うでわ》を嵌《は》め満面に溢《あふ》るるばかりの笑《えみ》を湛《たた》えて、
「露子こそ最も勇ましき振舞をしたものだ、此腕環は和女の物である、爾《そ》して此箱も私《わし》が好奇《ものずき》の玉村侯爵の申込により、あの淋しい森林中に置いて、和女等三人の内、誰が一番勇ましいかを試したもの、侯爵の書面に『この腕環を得し人は、同時に更に多くの宝物を得べき幸運を有す』とあったのは、即《すなわ》ち勇気ある者が、此箱を取る事が出来ると云う事を意味するのだ、私《わし》は一つ此箱を開けて見せよう、之《こ》れも総《すべ》て露子の物である」と云いつつ、隠袋《ポケット》から鍵《かぎ》を取出して其箱を開けば、中から出て来たのは、金銀宝玉の装飾品数十種、いずれも眩《まばゆ》きばかりの珍品である。
一番目の娘も二番目の娘も、森林を探検し得なかった臆病《おくびょう》が露顕
前へ
次へ
全12ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング