番勇ましい事をするか、私《わし》は夫《そ》れを試験する役目を帯びて居る」
「何《ど》んな試験をなさるのです」と、一番目の娘は問うた。
「サア、何んな試験をしたら宜《よ》かろう」
二番目の娘は父伯爵の顔を見上げ、
「そして阿父様《おとうさま》、玉村侯爵のお手紙に依《よ》ると、この黄金の腕環を得た者は、同時に更に多くの宝物を得べき幸運を有すと書いてありますが、その宝物とは何んなものでしょう」
「どんな物かは、夫れは後で分るだろう、兎《と》に角《かく》私《わし》は今、頻《しき》りに今夜の試験方法を考えて居るのだ」と、快活なる伯爵は小首を傾けて、凝乎《じっ》と窓から外を眺めて居る、何うも其《その》様子が何んだか意味有り気なので、三人の娘も眼《まなこ》を上げて、窓の硝子《ガラス》を透して外を眺めると、今夜は朧月夜《おぼろづきよ》であるが、既に夜は更けて天地万物眠れる如《ごと》く、遥《はる》か彼方《かなた》の森林では、梟《ふくろう》の鳴く声[#「声」は底本では「聞」]も聴《きこ》え、実に物凄《ものすご》い程静かな有様である。
途端《とたん》! 一同は思わずハッとした様子、それは何故《なぜ》かと云うに、今しも不意に一つの巨大《おおき》な流星が空中に現われ、青い光は東から西へ人魂《ひとだま》の如く飛んで、彼《か》の梟の鳴いて居る森林の辺でスーと消えて仕舞ったのを見たからだ。
「マア何んと云う巨大《おおき》な流星でしょう」と、一番目の娘も二番目の娘も眼《め》を円くして叫んだ。
すると之れを見た伯爵は、忽《たちま》ち何か考え出した様子で、
「オオ、面白い試験方法が胸に浮んだ」
「何んな試験方法です」
「他《ほか》でも無い、あの流星と云うものは何んだか気味の悪いもので、それが落ちたと覚《おぼ》しき場所へは、余程の勇士でも其夜《そのよ》直《す》ぐに行くのは厭《いや》がると云う、爾《そう》して昔からの口碑《いいつたえ》にも、流星の消えた場所には何か不思議な物が落ちて居ると云われて居る、夫れは本当か嘘《うそ》か分らぬが、兎に角今あの淋《さび》しい森林の中へは流星が落ちた、和女《そなた》等《ら》は未《ま》だあの森林の中へ入った事はあるまいが、随分変った場所だから、誰でも今夜あの森林を一番奥まで探検して、果して其様《そん》な不思議な物が落ちて居るか否か、最も正確に林中の模様を私《わし》に報告した者をば、今夜一番勇ましい振舞をした者と認め、私は玉村侯爵に代り此《この》腕環を与える事としよう」
「まあ厭な試験方法ですこと」と、一番目の娘も二番目の娘も叫んだ。
「厭なら仕方が無い、権利を放棄《ほうき》する迄《まで》さ、其代り此腕環を貰《もら》う事は出来ないぞ」
腕環の貰えぬのは閉口である、「それなら参りましょう」と二人共答えた。
伯爵は三番目の娘の露子《つゆこ》に向って、
「露子、和女《そなた》は何うじゃ」
露子は此時初めて口を開き、
「ハイ、妾《わたし》何んだか恐《こわ》い様に思いますけど、阿父様の仰《おっ》しゃる事なら参りましょう」
斯《か》くて相談は定《き》まり、三人の娘は一人ずつ流星の落ちた森林を探検する事となった。
先《ま》ず一番先に出かけたのは一番目の娘であったが、唯《た》だ一人小さい角燈を下げて家を出ると、朧月夜に風寒く、家を離れれば離れる程|四辺《あたり》は淋しくなって、やがて森林の側《そば》まで来て見れば、林中は真暗で何んだか化物《ばけもの》でも潜んで居るよう、何うしても踏み込んで探検する気にはなれず、一歩進んでは二歩退き、二歩進んでは三歩退き、其間に独り思うには、此林中には立木と草のあるばかり、流星が此処《ここ》で消えたとて何んの不思議な物が落ちて居るものか、好奇《ものずき》に此様《こん》な気味の悪い森林に入るよりは此儘《このまま》此処から家に帰り、阿父様に林中の有様を問われたら、森林を残る隈《くま》なく探検しましたが、唯だ立木と草のあるばかりで、不思議な物は少しも見えませんかったと答えよう、此方が余程利口であると、娘の癖に狡猾《ずる》い事を考え、来る時の足の遅さとは反対に、飛ぶ様に家に帰って来た。
次に行《い》ったのは二番目の娘であったが、此娘は姉様より更に臆病《おくびょう》なので、森林の側まで行くか行かぬに早や身慄《みぶる》いがし矢張り姉様と同じ様な狡猾い事を考え、一目散に家に帰って来た。
三 流星の落し物
今度は三番目の娘|露子《つゆこ》の番である、露子とて年若き娘の身の、何んで夜の恐ろしさを感ぜずには居よう、けれど彼女は極《ご》く正直な性質なので、一旦《いったん》父君に森林を探検して来ると約束した以上は、たとえ生命《いのち》を取られても其《その》約束を果さねばならぬと思い、森林の側《そば》まで来た時は夜《よ》
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