ところでは、あれあれといふ間《ま》もなく、千|年《ねん》位《ぐらゐ》の年月《としつき》が流《なが》れてしまふさうだ。だから、ヱヴェレストは千|年《ねん》も前《まへ》の出来事《できごと》を昨夜《ゆふべ》の夢《ゆめ》のやうにして話《はな》してくれる。
随分《ずいぶん》古《ふる》い昔《むかし》のこと、ヱヴェレストのはるか麓《ふもと》に、ラランとよぶ一|羽《は》の鴉《からす》が棲《す》んでゐた。もの凄《すご》いほど暗《くら》い、こんもりと繁《しげ》つた密林《みつりん》の奥《おく》で、毎日《まいにち》歌《うた》つてる小鳥《ことり》や仲《なか》のいゝ虫《むし》などを殺《ころ》して喰《た》[#ルビの「た」は底本では「あ」]べてゐた。喰《た》べ飽《あ》きると、密林《みつりん》の上《うへ》を高《たか》く気侭《きまま》に飛《と》ぶのが好《す》きで、またその飛行振《ひかうぶ》りが自慢《じまん》の種《たね》でもあつた。ラランの悪知慧《わるぢえ》は有名《いうめい》なもので、ほかの鳥《とり》がうまく飛《と》んでるのを見《み》ると、近寄《ちかよ》つては自分《じぶん》の尖《とが》つた嘴先《くちさき》てチクリと刺《さ
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
逸見 猶吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング