「着《お》ち|つ《つ》いた」はママ]もので、
『おい、ペンペよ。いまごろ気《き》がついたか。おれも腹《はら》が減《へ》つてきたので、自分《じぶん》の眼玉《めだま》を片方《かたほう》抉《えぐ》りだして喰《く》つてるのだ。それにしばらくすると、また元《もと》どほりに眼玉《めだま》がちやんと出来《でき》てくるから奇妙《きめう》なものさ。』
 そして格別《かくべつ》の味《あぢ》だと言《い》はんばかりに喉《のど》を鳴《な》らした。寒《さむ》さも寒《さむ》さだが、自分《じぶん》の眼玉《めだま》がたべられるなんて聞《き》いたので、思《おも》わずブルルッと身震《みぶる》ひしたペンペは、さつそく片方《かたほう》の眼玉《めだま》をたべてみた。なるほど旨味《うま》い。いくらか元気《げんき》も出《で》てきたので、ラランについて上《うえ》へ上《うえ》へと飛《と》んでゐた。すると間《ま》もなく先《さき》にゆくラランが前《まえ》のやうに喉《のど》を鳴《な》らしはじめた。ペンペは気《き》が気《き》でない。
『ラランよ、今度《こんど》は何《なに》をたべてるのか。少《すこ》しでいいから分《わ》けてくれよ。腹《はら》が減《へ》つて僕《ぼく》はもう目《め》が廻《まは》[#ルビの「まは」は底本では「まほ」]りそうだ』
 ラランはすまして答《こた》へた。
『さういふ眼玉《めだま》を喰《く》つたまでさ。そのほかに何《なに》があるものか。』
馬鹿《ばか》なペンペは欺《だま》されるとも知《し》らずに、また片方《かたほう》の眼玉《めだま》をたべてしまつた。もう四千メートルに近《ちか》い霧《きり》の中《なか》だ。たうとう盲目《めくら》になつたペンペは、ラランの姿《すがた》を見失《みうしな》ひ、方角《ほうがく》も何《なに》もわからなくなつて、あわてはじめたがもう遅《をそ》かつた。
『ラランよ、ラランよ、』と叫《さけ》ぶ。
 ラランの奴《やつ》は意地悪《いじわる》[#ルビの「いじわる」は底本では「いさわる」]く上《うへ》へ上《うへ》へとペンペの頭《あたま》の上《うへ》を聞《き》こえないふりして飛《と》んでいつた。ペンペはすつかりベソをかいて、繰《く》り返《かへ》しラランの名《な》を呼《よ》んだが、その返事《へんじ》がないばかりか、冷《つめ》たい霧《きり》のながれがあたりいちめん渦巻《うづま》いてゐるらしく、そのために自分《
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