たはるか山濤のいきづらに打ちむかふ
仰げば昇汞の天の底つねに巨いなる陥穽を愛せり
われの呪ふべきかな
噴火獣の餌食とならばなるも善いかな
いくたびか諸悪奴輩の憂愁に共感せるも
いまにして淋漓たるものをつらぬかんと欲情せり
風に乗る硝煙は風のいやはてに絶えんとして
火の陣営に黒一色の死を混じへ
なにものをもさらに混じえず
かくてもわれに参加するものはあらじ


  哈爾浜

埠頭《プリスタン》区ペカルナヤ
門牌不詳のあたり秋色深く
石だたみ荒くれてこぼるゝは何の穂尖ぞ
さびたる風雨の柵につらなり
擾々たる世の妄像ら傷つきたれば
なにごとの語るすべなし
巨いなる土地に根生えて罪あらばあれ
万筋なほ欲情のはげしさを切に疾むなり
在るべき故は知らず
我は一切の場所を捉ふるのみ
かくてまた我が砕く酒杯は砕かれんとするや
かかる日を哀憐の額もたげて訴ふる
優しさ著《し》るきいたましき
少女名は
風芝《ふおんず》とよべり
死の黄なるむざんの光なみ打ちて
麺麹つくる人の影なけれどもペカルナヤ
ひとしきり西寄りの風たち騒ぐなり


  海拉爾

凄まじき風の日なり
この日絶え間なく震撼せるは何ぞ
いんい
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