んたる蝕の日なれば
野生の韮を噛むごとき
ひとりなる汗《ハン》の怒りをかんぜり
げに我が降りたてる駅のけはしさ
悲しき一筋の知られざる膂力の証か
啖ふに物なきがごと歩廊を蹴るなり
流れてやまぬ血のなかに泛びいづるは
大興安のみぞおちに一瞬目を閉づる時過ぎるもの
歴史なり
火襤褸なり
永遠熄みがたき汗の意志なり
風の日|※[#「木+草」、255−下−17]《かんば》飛び 祈りあぐる
おお砂塵たちけぶる果に馬を駆れば
色寒き里木《リーム》旅館は傾けり


  汗山《ハンオーラ》

茫々たるところ
無造作に引かれし線にはあらず
バルガの天末。
生き抜かんとする
地を灼かんとするは
露はなる岩漿の世にもなき夢なり
あはれ葦酒に酔ふ
旧き靺鞨の血も乾れはてゝ
いまぞ鳴る風の眩暈。
    ――山汗は蒙古語にて興安嶺の意なり――[#この行は文字小さく]


  熱河

冷タク血ニ渇イテ。岩角ヲ 繊維ノヤウナモノ。ソノ杳カナ所 燃エ煌メク深淵《フカミ》ニ難破スル オレノ双《モロ》手。擾キミダス 荊棘ヲ 暗イ溝渠《カナル》ト人影ト死ト。ヒルガエル狂気ノ轍ト。一沫ノビテユメン。アア 縒リタグル熱風ノ一陣
前へ 次へ
全40ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
逸見 猶吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング