なる彼こそ、燦として正しく煤を払ふ荒掠者の姿だ。彼を捉へ、彼に視入り、彼から離れ去る誠実の言葉は、己たちに降りかゝる贖ひの血しぶき、――いつかは涯の日を笞打たれる身であらうに、おもへば己や君や、※[#「穴/宇」、251−上−19]《まれ》なる理会の何んといふ空しさだ。
堕ちゆく面貌の数々といひ
こころなき蹂躙に委せた心情の隈といふ――
喪に塗りつぶされた自棄くそのインキ画で
生活の 情痴の ひたむきな妄想の蠅といふ――
たちまち群れて唸りをあげ 犇きあがり 修羅の火の
手に覆へる大血槽に溺れるといふ――
おもふざま其処でじたばたするといふのだ。
無頼な群集の裡に棲みながら
おもひ上つた信条を悦しいといふ――
ああ 冷酷の無辺大 磁の凄じい牽引に躯を焼いて
すべて闘ひの途に起て。各々はげしい自愛を衝くのだ。
この夜明けに 幾万の眼をひらく子らは 甍に重なる甍を跨がり 海へなだれる起伏の昏い涯を馳つて 彼等その生長の日々に何を歓び歌ふであらうか。撃たれよ みづからの深傷《ふかで》に生きたる哄ひをあげて 千年の鉄柵に懊のやうな血を流すべし。
河上に 玻璃末の錯乱。
荒掠者の行方。
己はまだ
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