遡る。永遠 風に荒れて 兇行の日々は殷賑たれ。
無題
冬なれば大藍青の下の道なり
樹々のはだ臘のごと凍りはつれど
樹々はみなつめたき炎に裂かれたり
樹々は怒りにふるへをののき
樹々の闘ひ
残雪に影ながくたれ
なにごとか祈らんとしていのりあへず
道のはていづことも知れざれども
壮んなる時をよばひて樹々は光にちぬれたり
ある日無音をわびて
ぺこぺこな自転車にまたがつて
大渡橋をわたつて
秩父颪に吹きまくられて
落日がきんきんして
危険なウヰスキで舌がべろべろで
寒いたんぼに淫売がよろけて
暗くて暗くて
低い屋根に鴉がわらつて
びんびんと硝子が破れてしまふて
上州の空はちひさく凍つて
心平の顔がみえなくて
ぺこぺこな自転車にまたがつて
コンクリに乞食がねそべつて
煙草が欲しくつて欲しくつて
だんだん暗くて暗くて
青い図面
A
俺が窓をあけると貴様は階段を馳けおりた
太陽は起重機の下でぼろぼろに錆びてしまつた
電流の作用で群集の額はたちまち蒼褪めていつた
意識の内部に赤い盲腸が氾濫した
くづれた街角に走つて貴様は誰かをしきりに呼んだ
俺はあをい図面を手にし
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