まま、ぎるんぎるんと渦巻く気圏に反りながら、冷酷な秋の封鎖のまつただ中を抛れた、その記憶がま新《あた》らしい。己はどんなざまに声をあげたらうか。凹凸に截られた、石畳の隅で、彼等街衢から出はづれ台地を降る者の、塩を銜《ふく》んだ頤が獣のやうに緊るのを知つた時。その不可解の一瞥に、蒼ざめた北方路線がまざまざと牽かれるのを、己は視たのだ。隙もれた裏屋根の、冴えた肋《あばら》に入り交ふものは、しらじらと西風に光る利鎌、はやくも鉤なりに、彼等の額に※[#「纏」の「广」に代えて「厂」、240−上−14]《まつは》る何ものの翳であらう。ひと時の寂寞。
蘆のよぶ声がする。その向ふを久しく忘られたまま、湾流に沿ふ屍の形。頸のぐるりを霙の兆《しら》せ。錘のやうに寂寞が見えてくるのだ。今こそ潤ひなき火に、密度の凄まじい地角の涯に、彼等ひとしく参加する時を待つてゐるのか。見知らぬ移住地に獣皮を焚き、轍を深める。己は餓ゑ、さらに彼等は餓えるだらう。
※[#ローマ数字2、1−13−22]
すべては荒蕪の流域につらなる裏屋根の、出窓の格子に仮泊する、夥しい鴉の群だ。海藻を絡んだ羽を搏つて、失はれた耕地の跡
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