を銜《ふく》むのを見て陶然とする。他所《よそ》の女にちやほやされるのを見て手柄を感ずる。息子は十六七になったときには、結局いい道楽者になっていた。
母親は、育てるのに手数をかけた息子だけに、狂気のようになってその子を父親が台なしにして仕舞ったと怒る。その必死な母親の怒りに対して父親は張合いもなくうす苦く黙笑してばかりいる。家が傾く鬱積を、こういう夫婦争いで両親は晴らしているのだ、と息子はつくづく味気なく感じた。
息子には学校へ行っても、学課が見通せて判り切ってるように思えた。中学でも彼は勉強もしないでよく出来た。高等学校から大学へ苦もなく進めた。それでいて、何かしら体のうちに切ないものがあって、それを晴らす方法は急いで求めてもなかなか見付からないように感ぜられた。永い憂鬱と退屈あそびのなかから大学も出、職も得た。
家は全く潰れ、父母や兄姉も前後して死んだ。息子自身は頭が好くて、何処《どこ》へ行っても相当に用いられたが、何故か、一家の職にも、栄達にも気が進まなかった。二度目の妻が死んで、五十近くなった時、一寸《ちょっと》した投機でかなり儲《もう》け、一生独りの生活には事かかない見極
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