い》の一側がローマの古跡のように見える。ともよ[#「ともよ」に傍点]と湊は持ちものを叢《くさむら》の上に置き、足を投げ出した。
ともよ[#「ともよ」に傍点]は、湊になにかいろいろ訊いてみたい気持ちがあったのだが、いまこうして傍に並んでみると、そんな必要もなく、ただ、霧のような匂いにつつまれて、しんしんとするだけである。湊の方が却って弾《はず》んでいて
「今日は、とも[#「とも」に傍点]ちゃんが、すっかり大人に見えるね」
などと機嫌好さように云う。
ともよ[#「ともよ」に傍点]は何を云おうかと暫《しばら》く考えていたが、大したおもいつきでも無いようなことを、とうとう云い出した。
「あなた、お鮨《すし》、本当にお好きなの」
「さあ」
「じゃ何故来て食べるの」
「好きでないことはないさ、けど、さほど喰べたくない時でも、鮨を喰べるということが僕の慰みになるんだよ」
「なぜ」
何故、湊が、さほど鮨を喰べたくない時でも鮨を喰べるというその事だけが湊の慰めとなるかを話し出した。
――旧《ふる》くなって潰《つぶ》れるような家には妙な子供が生れるというものか、大きな家の潰れるときというものは、
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