のを注文して、籠にそれを入れて貰う間、店先へ出て、湊の行く手に気をつけていた。
河鹿を籠に入れて貰うと、ともよ[#「ともよ」に傍点]はそれを持って、急いで湊に追いついた。
「先生ってば」
「ほう、とも[#「とも」に傍点]ちゃんか、珍らしいな、表で逢うなんて」
二人は、歩きながら、互いの買いものを見せ合った。湊は西洋の観賞魚の髑髏魚《ゴーストフィッシュ》を買っていた。それは骨が寒天のような肉に透き通って、腸が鰓《えら》の下に小さくこみ上っていた。
「先生のおうち、この近所」
「いまは、この先のアパートにいる。だが、いつ越すかわからないよ」
湊は珍らしく表で逢ったからともよ[#「ともよ」に傍点]にお茶でも御馳走しようといって町筋をすこし物色したが、この辺には思わしい店もなかった。
「まさか、こんなものを下げて銀座へも出かけられんし」
「ううん、銀座なんかへ行かなくっても、どこかその辺の空地で休んで行きましょうよ」
湊は今更のように漲《みなぎ》り亘る新樹の季節を見廻し、ふうっと息を空に吹いて
「それも、いいな」
表通りを曲ると間もなく崖端に病院の焼跡の空地があって、煉瓦塀《れんがべ
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