に、世の果ての審判《しんぱん》のように深刻に、夜景全局を刹那に地獄相《じごくそう》に変貌《へんぼう》せしめまた刹那にもとの歓楽相に戻《もど》す。それは何でもない。間近い城東電車のポールが電力線にスパークする光なのだが、小初は眺《なが》めているうちに――そうさ、自分に関係のない歓楽ならさっさと一|閃《ひらめ》きに滅《ほろ》びてしまうがいい、と思った。そのときどこからともなく、ハイヤーの滑《すべ》って来る轟《とどろき》がして、表通りで停《と》まったらしい。
がっしりした男の足音が、水泳場の方へ昇《のぼ》って来た。
「どなた」
貝原が薄暗のなかでちょっとはにかんだような恰好《かっこう》で立ち止った。
「私ですよ。少し遅《おそ》くなりましたが、街へ踊りに出かけましょう。出ていらっしゃいませんか」
「なぜ、裏梯子《うらばしご》から上っていらっしゃらないの」
「薄荷水をピストルで眼の中へ弾《はじ》き込まれちゃかないませんからなあ」
小初は電球を捻《ひね》って外出の支度をした。箪笥《たんす》から着物を出して、荒削《あらけず》りの槙柱《まきばしら》に縄《なわ》で括《くく》りつけたロココ式の半姿見
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