《かたど》り、結構華麗に仕立て上げた。けれども宗右衛門の心は矢張り慰まなかつた。否、むしろ追々|荒《すさ》んで行くのであつた。折角《せっかく》、精出して仕立てた英《はなぶさ》を片はしからむしつて歩く日もあつた。隠居所の扉を閉め切つて、外の景色に眼をふれまいとするやうな日もあつた。人々は寺の周囲の勝景をよろこんだ。が、それと同時に、宗右衛門の狂気の沙汰《さた》を愈々《いよいよ》、噂《うわさ》に高めた。
三年目の年が明けて、梅もぽつ/\咲き初めた頃、添田家縁者一統の総代が、泰松寺へ出頭して、宗右衛門の家事不取締りから、使用人の怠慢、家業|破綻《はたん》の条々を縷述《るじゅつ》し、その上、娘お小夜の急病を報じて宗右衛門の自宅へ復帰することを老師に願ひ出《い》でた。それは丁度宗右衛門が、荒廃と疲労の極度に達した自分の最後の処置を老師の前に哀訴したと殆ど同時であつた。もちろん家に残した娘達への回避の念、物質本位の家業に対する倦厭《けんえん》の情は、いつもの通りくりかへして述べられた。たゞ、壁画に就《つい》ての羞恥《しゅうち》ばかりは始めて老師の聞くところであつた。彼はそれを打ち明ける辛《つら》
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