う》ちを造つた。結構な打ち菓子を誂《あつら》へて仏前や老師に供へた。しまひには納所《なっしょ》部屋にまでも、それを絶やさなかつた。泰念といふ静《しずか》な朴訥《ぼくとつ》な小僧が居て、加減よく茶を立てゝは宗右衛門によくすゝめた。彼は薄い夏|蒲団《ぶとん》を家から運んだ。そして涼しい庫裡裏で半日を午睡に過し、夕方すご/\家へ帰つて行く。彼のその姿を度々見かける村の者は、長年、彼の豪勢へ持つてゐた反感を、この頃、幾何《いくばく》の同情に変へて来た。泰松寺から家へ帰つて行く彼の心は暗かつた。恐ろしかつた。とりとめもなく腹立たしかつた。彼は奥座敷の離れ家の屋根の見える側の雨戸を夏の真盛りの夕刻早々厳重に閉めさした。
秋の晩方から宗右衛門は寺の納所《なっしょ》部屋の隣へ小さな隠居所を建てゝ籠《こも》つた。寺の世話役も彼の心中を察して別段やかましく言はなかつた。村の者もあまり怪《あやし》まうとしなかつた。しかし、たゞ宗右衛門が少し気がふれたと取沙汰《とりざた》する者は多かつた。宗右衛門は三日に一度くらゐ帰つて来て、それもほんの屋敷の一部をぼんやり見廻はつて来るに過ぎなかつた。
一番々頭が持
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