位な定期的なものになった。
みち子は裏口から入って来た。彼女は茶の間の四畳半と工房が座敷の中に仕切って拵《こしら》えてある十二畳の客座敷との襖《ふすま》を開けると、そこの敷居の上に立った。片手を柱に凭《もた》せ体を少し捻《ひね》って嬌態を見せ、片手を拡げた袖の下に入れて、写真を撮《と》るときのようなポーズを作った。俯向《うつむ》き加減に眼を不機嫌らしく額越しに覗かして
「あたし来てよ」と云った。
縁側に寝ている柚木はただ「うん」と云っただけだった。
みち子はもう一度同じことを云って見たが、同じような返事だったので、本当に腹を立て
「何て不精たらしい返事なんだろう、もう二度と来てやらないから」と云った。
「仕様のない我儘《わがまま》娘だな」と云って、柚木は上体を起上らせつつ、足を胡座《あぐら》に組みながら
「ほほう、今日は日本髪か」とじろじろ眺めた。
「知らない」といって、みち子はくるりと後向きになって着物の背筋に拗《す》ねた線を作った。柚木は、華やかな帯の結び目の上はすぐ、突襟《つきえり》のうしろ口になり、頸の附根を真っ白く富士山形に覗かせて誇張した媚態《びたい》を示す物々しさに
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