較べて、帯の下の腰つきから裾は、一本花のように急に削《そ》げていて味もそっけもない少女のままなのを異様に眺めながら、この娘が自分の妻になって、何事も自分に気を許し、何事も自分に頼りながら、小うるさく世話を焼く間柄になった場合を想像した。それでは自分の一生も案外小ぢんまりした平凡に規定されてしまう寂寞《せきばく》の感じはあったが、しかし、また何かそうなってみての上のことでなければ判らない不明な珍らしい未来の想像が、現在の自分の心情を牽《ひ》きつけた。
 柚木は額を小さく見せるまでたわわに前髪や鬢《びん》を張り出した中に整い過ぎたほど型通りの美しい娘に化粧したみち子の小さい顔に、もっと自分を夢中にさせる魅力を見出したくなった。
「もう一ぺんこっちを向いてご覧よ、とても似合うから」
 みち子は右肩を一つ揺ったが、すぐくるりと向き直って、ちょっと手を胸と鬢へやって掻《か》い繕った。「うるさいのね、さあ、これでいいの」彼女は柚木が本気に自分を見入っているのに満足しながら、薬玉《くすだま》の簪《かんざし》の垂れをピラピラさせて云った。
「ご馳走を持って来てやったのよ。当ててご覧なさい」
 柚木はこ
前へ 次へ
全35ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング