、注文先からの設計の予算表を造っていると、子供が代る代る来て、頸《くび》筋が赤く腫《は》れるほど取りついた。小さい口から嘗《な》めかけの飴《あめ》玉を取出して、涎《よだれ》の糸をひいたまま自分の口に押し込んだりした。
彼は自分は発明なんて大それたことより、普通の生活が欲しいのではないかと考え始めたりした。ふと、みち子のことが頭に上った。老妓は高いところから何も知らない顔をして、鷹揚《おうよう》に見ているが、実は出来ることなら自分をみち子の婿《むこ》にでもして、ゆくゆく老後の面倒でも見て貰おうとの腹であるのかも知れない。だがまたそうとばかり判断も仕切れない。あの気嵩《きがさ》な老妓がそんなしみったれた計画で、ひと[#「ひと」に傍点]に好意をするのではないことも判る。
みち子を考える時、形式だけは十二分に整っていて、中身は実が入らずじまいになった娘、柚木はみなし茹《ゆ》で栗の水っぽくぺちゃぺちゃな中身を聯想《れんそう》して苦笑したが、この頃みち子が自分に憎《にくし》みのようなものや、反感を持ちながら、妙に粘って来る態度が心にとまった。
彼女のこの頃の来方は気紛れでなく、一日か二日置き
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