同時に仲人を介して結婚を申し込んでいる智子の家と同じ地主仲間の北田家の当主三木雄は盲目青年の上、教育もなし、まるで周囲の問題にされていなかった。
智子も始は、若年の医者豊雄に好感を持っていた。濶達《かったつ》明朗で、智識と趣味も豊かに人生の足取りを爽《さわや》かに運んで行く、この青年紳士は、結婚して共に暮して行くのに華々しく楽しそうだった。しかし彼が持っている円滑で自在な魂は、かならずしも、人生の伴侶《はんりょ》として特に自分を指名する切実性を持つ魂とは受取れなくなった。美人で才能ある女なら誰でもよさそうだった。ひょっとすると、彼の通俗な魂は勢逞《いさ》ましいだけに、智子が自分の大切にしている一つの性情を、幸福の形で圧し潰《つぶ》してしまいそうに思われた。
それに引きかえ、同じ姻戚《いんせき》の盲目青年北田三木雄の頼りなく無垢《むく》なこころは姿に現れていて、ある日智子は絶えて久しい武蔵野の北田家を訪ねて、殆ど初対面のような三木雄を一目見て、すぐ、運命に対する清らかな忿懣《ふんまん》を感じ、女性のいのちの底からいじらしさをゆり動かされるのを感じた。抛《ほう》っては置けない情熱を感じ
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング