して貰《もら》った包みから、沢山のおもちゃを取出して並べている。
 郊外にいる室子の父の妾《めかけ》の子であり乍ら、しじゅう、通油町の本宅の家の子として引取られている蓑吉は、折を見つけては姉のいるこの橋場の寮へ遊びに来|度《た》がっている。室子が此間じゅう、一寸《ちょっと》風邪をひいたと昨日|言伝《ことづ》けたのを口実に、蓑吉は早速母親にせがんで、見舞いに来さして貰ったのだった。
 室子は縁側の籐椅子で、女中を相手に、朝飯を喰べながら
「蓑ちゃんは可笑《おか》しい。姉ちゃんはもう、とっくに風邪なおって起きちまってるのに見舞いに来るなんて」
「でも、来てやったんだい」
 蓑吉は、こまごましたおもちゃを並べるのに余念が無い。
「それ、姉ちゃんのお見舞いに呉れたのね、自分で買って来たの」
「ああ」
「それを買うおあし、お母さんにいくら貰ったの」
「二円だい」
 女中がきゅうきゅう笑った。
「済まないわね、そんなに沢山蓑ちゃんから頂いちゃ」
 室子は、とぼけた声で、云って見せた。
 すると蓑吉は、欲望を割引しなければならない切ない苦痛で顔が真赤になり、物事を決断し兼ねるときのこの子の癖のしきり
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