り、室子の性質なりで、うまくは行くまいとの明《めい》だけは両親に在った。蓑吉を仕込んで小規模に家業を継がせ、望み手もあらば室子は嫁に出す考えである。見合いの口が二つ三つあった。
 母親がわが事のように意気込んで、見合いの日室子を美容術師へ連れて行き、特別|誂《あつら》えの着物を着せた。普通の行き丈けや身幅ものでも、この雄大な娘には紙細工の着物のように見えた。出来上った娘の姿を見て「この娘には、まるで女の嬌態《しな》が逆についている」と母親が、がっかりした。けれども、美容師の蔦谷女史は、心から感嘆の声を放った。そして、是非、写真を撮らして欲しいと望んだ。だが、室子がそれを断った。
 見合いは順当に運んだ。附添って行った母親の眼にも落度は無いように思われた。
 ところが翌日仲介者が断りに来た。
「何分にも、お立派過ぎると、あちらは申すんで――」
「立派すぎるなんて、そんな断りようがあるか」
 父親は巻煙草を灰皿にねじ込んで怒った。
 室子はもう一度見合いをさせられた。それは口実なしに先方が返事を遷延《せんえん》してしまった。
 室子はそういう場合、得体《えたい》の知れぬ屈辱感で憂鬱になる。
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