めた。血潮が迸る。彼は頭を腑中に抉《こ》じていたが、すぐ包もののような塊を銜《くわ》え出した。顔中のみか鬚髪まで血みどろになって恐ろしく異様な生ものに見えたと銜えた包もののような塊からも繋る腑の紐からも黒いほどの獣の血が滴った。彼はそうしながら、しょんぼりとして女の前に立つ。これはなんのつもりだろう。すると、不思議に、女は顔蒼ざめさせ体は慄えながら一種の酔心地とならざるを得なかった。生れて始めて力というものが身の中に育まれるのを感じた。
 だが女はこの気持を通しての、酔えるままにこの男と融け合ったならどういうところへ行くであろうと危く思う。
 女は、そ知らぬ顔をして富士を見上げた。碧い空をうす紫に抽き上げている山の峯の上に相変らず鳥が渡っている。奥深くも静な秋の大山。
 女は、所詮、どっちかからいい出さねばならない羽目が近付いているのを悟った。母親も気付いて相手の身分を図《はか》り近頃はぐずぐずいう。しかしこの情熱を生のままでは、たとえこのまま二人は結ばれたにしろ、のちのあくどさ[#「あくどさ」に傍点]が思い遺られる。
 その日はやはり「この大根、嫁かずであれ、――今に」といって駆去っ
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