奇妙な形をしたいろいろの巨きな岩、滝――女体の峯から戻って来る道には、そういう目の慰みになるものもあった。虫を捉えて食べるという苔、実の頭から四つの羽の苞《つと》が出ている寄生木《やどりぎ》の草、こういうものも翁には珍らしかった。
 息子の岳神は暇な暇な、父の祖神を山中に案内して見せて廻るうち、ある日、山ふところの日当りの小竹《ささ》原を通りかかり、そこに二坪近くの丸さに、小竹之葉《ささがは》が剥げ、赤土が露《む》き出ているのを見付けると、息子の岳神は指して笑いながらいった。
「猪が仔猪をつれて来て相撲《すま》って遊ぶところです」
 赤土は何度か猪の蹄《ひづめ》に蹴鋤かれたらしく、綿のように柔かに、ほかほか暖そうであった。
「なるほど、この辺は人里離れて、猪の遊ぶのに持って来いだ」
 翁はそういって、傍の保与《ほよ》(寄生木)のついている山松を見上げた。その日は何心なくそれで過ぎた。
 岳神の父親が滞在すると聞き付けて、配下の土民たちはところところの産物を父の祖神に差上げて呉れと持って来た。
 加波山で猟れた鹿らしく鹿島の猟で採れた鰒《あわび》、新治《にいばり》の野で猟れた、鴫《しぎ
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