いた。上つ瀬には桜皮《かにわ》の舟に小※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]《おがい》を操り、藻臥《もふじ》の束鮒《つかふな》を漁ろうと、狭手《さで》網さしわたしている。下つ瀬には網代《あじろ》人が州の小屋に籠《こも》って網代に鱸《すずき》のかかるのを待っている。
翁はときどき、ひょん[#「ひょん」に傍点]なところで、ひょん[#「ひょん」に傍点]な憩い方をしていると、苦笑して悩みつつある一人ぼっちの自分を見出すのであったが、なかなか腰は上げ悪《にく》かった。
東国のこのわたりの人は言葉や気は荒かったが、根は親切だった。餓えて憩っている老翁のために魚鳥の獲ものの剰ったのを持って来て呉れたり、菱の実や、黒慈姑《えぐ》を持って来て呉れたりした。雨露を凌ぐ菰《こも》の小屋さえ建てて呉れた。
昼は咲き夜は恋宿《こいする》という合歓の木の花も散ってしまった。翁は寂しくなった。翁がこの木の下にしばし疲れを安めるために憩うたのは、一つは、葉の茂みの軟かさにもあるのだろうが一つは微紅《とき》色をした房花に、少女として自分の膝元に育て上げていた時分の福慈の女神の可憐な瞳の面かげを見出していたので
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