とするものではなかろうか。
 娘は祭の儀を説いて神の中なる神に相逢うといった。
 思えば思うほどひとり壁立|万仭《ばんじん》の高さに挺身《ていしん》して行こうとする娘の健気《けなげ》な姿が空中でまぼろしと浮び、娘の足掻《あが》く裳からはうら哀しい雫《しずく》が翁の胸に滴《したた》って翁を苦しめた。
 取り付きようもない娘の心にせめて親子の肉情を繋ぎ置き度い非情手段から、翁は呪《のろ》いという逆手《ぎゃくて》で娘の感情に自分を烙印《らくいん》したのだったが、必要以上に娘を傷けねばよいが。
「どうしたらいいだろうなあ」
 山の祖神の翁は螺の如き腹と、えび蔓のように曲がった身体を岸の叢《くさむら》に靠《もた》せて、ぼんやりしていた。道々も至るところで富士の嶺は望まれたが見れば眼が刺されるようなので顧ってみなかった。
 岸の叢の中には、それを着ものの紐《ひも》につけると物を忘れることができるという萱草《わすれぐさ》も生えていたが、翁はそれも摘まなかった。せめて悩んでいてやることが娘に対する理解の端くれ[#「くれ」に傍点]になりそうに思えた。
 前には刀禰《とね》の大河が溶漾《ようよう》と流れて
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