でありながら超越の距《へだた》りが感じられる福慈の神は、白の祭装で、※[#「木+若」、第3水準1−85−81]机《しもとづくえ》に百取《ももとり》の机代《つくえしろ》を載せたものを捧げ、運び行くのが見える。
 長なす黒髪を項《うなじ》の中から分けて豊かに垂れ下げ、輪廓の正しい横顔は、無限なるものを想うのみ、邪《よこしま》なる想いなしといい放った皎潔《きょうけつ》な表情を保ちながら、しら雲の岫《くき》を出づる徐《おもむろ》なる静けさで横に移って行く。清らかな斎《いつき》の衣は、鶴の羽づくろいしながら泉を渡るに似て爽かにも厳《おごそ》かである。
 蛍光のような幽美な光りが女神の身体から照り放たれ、その光りの輪廓は女神の身体が進めば闇に取り残され、取残されては急いで、進む女神の身体に追い戻る。
 常陸《ひたち》の国の天羽槌雄神が作った倭文布《しずり》の帯だけが、ちらりと女神の腰に艶なる人界の色を彩《あやど》る。
 翁はわが子ながら神々しくも美しいと見て取るうち、女神の姿は過ぎた。
 娘の神が捧げて過ぎた机代のものの中で、平手《ひらて》に盛った宇流志禰《うるしね》の白い色、本陀理《ほだり》に入
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