病房にたわむ花
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)落付《おちつ》か

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)随分|傷《いた》んで

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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 春は私がともすれば神経衰弱になる季節であります。何となくいらいらと落付《おちつ》かなかったり、黒くだまり込んで、半日も一日も考えこんだりします。桜が、その上へ、薄明の花の帳《とばり》をめぐらします。優雅な和《なご》やかな、しかし、やはりうち閉《とざ》された重くるしさを感じます。日本の春の桜は人の眉《まゆ》より上にみな咲きます。そして多くは高々と枝をかざして、そこにもここにもかしこにも人を待ちうけます――時にはあまりうるさく執拗《しつよう》に息づまるようななやましさをして桜は私の春の至るところに待ちうけます。こんな神経衰弱者の強迫観念や憂鬱《ゆううつ》感は桜にとって唯《ただ》迷惑でありましょう。しかしそれらは却《かえ》って私
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