ッフェル塔の頂上だけ土台も胴なかもなくてふんわりあの高さに浮ばせる無理が不思議でなく顕現するんだよ。は は は は は は。おれが思うのには聖オウガスチンという男はあわてものさ。あの火花を見ただけで神様の体まで見てしまったものと早合点したのさ。あれは神様じゃ無いよ。あれは神様の後光だけなんだよ。神様の体なんていものは伊太利《イタリー》の生章魚《いきだこ》のようにその居場所によってその居場所と同じようになっちまうんだから到底見えやしないよ。
 そうかい、おまえさん、橋を渡って河岸《かし》を歩いて帰りなさるかい。今日は天気が宜いから曳舟《ひきぶね》から岸壁の環へ洗濯|紐《ひも》を一ぱい張ってあるから歩き憎《にく》いよ。は は は。あすこの釣好きの馬鹿を見なさい。釣った魚を、ポケットへ蔵い込んで大事にボタンを締めたよ」

     乗[#レ]船失[#レ]盂喩

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或《ある》愚男が海に盂を落した。男は直ちに落した箇所の水流の具合など描き取って置いた。二ヶ月して他国で前に描いて置いた水の具合いに似た海に来た。男は盂を得ようとして其処《そこ》を探して得なかった。
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