保志子は妹達にも見知らせて置き度かった。飲んで内壁から吸収する幸福を気付かせて置くことは嫁入前の妹達に結婚衛生学の助講にもなる。
 だが若い妹達に、まだ男の愛を肌地《きじ》のよしあしで品さだめしない娘たちに、はたしてじぶんの夫の愛情のようなものが判るかしらん。牛乳の味が判るかしらん。いまだに彼女等がハリウッドへスターのサインを貰う為めに手紙を鵞《が》ペンでなぞりなぞり書いてるような娘たちであったらこりゃむずかしい。こりゃ、肌地より分量で示すよりほかあるまい。
 保志子は夫に頼んだ。
「これから向う五日間よ。なるたけ愛を節約してね。けれど妹たちが来たらその溜めといた分を思う存分あたしの上に使ってね。使って見せてね」
 髪の薄い夫はよしよしといった。
 樟脳《しょうのう》とナフタリンの匂いのするスカートと花模様の袂《たもと》がごちゃごちゃに玄関で賑わって六日目の朝、妹たちが到着した。
「あたしが一番よ」
「あたしが一番よ」
 二番目の妹と三番目の妹とは息をはあはあ云わせ乍らこんなことを争って居る。停車場から馳けっこをして来たのだ。
 相変らずこんな娘達だ。その用意しといて宜かった、と保志子
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