死んでその証《あかし》を見せたこの言葉は殊にこの案内者だけの言葉であったのか、それとも昔から一般案内者の間に伝わって居た一般案内者のうちの或者が或場合に遭遇する運命を予約したものかみんなには判らなかった。彼等はそこから出かけようとして一斉に砂だらけな案内者の平凡な顔を見返した。

     ※[#「口+奄」、第3水準1−15−6][#レ]米決[#レ]口喩

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妻の家の米を盗んで口へ入れた男の話。
[#ここで字下げ終わり]
 こういう気持ちを人にいって判るだろうかどうだろうか。またはこういう気持ちは自分だけ変質的に持っていて到底、他人には理解されずに終る果敢《はか》ないものの一つなのか。作太郎は医者の前で涙をぽろぽろ零《こぼ》した。医者は作太郎の膨れた頬に丁寧に麻痺剤を注射した。手術を取捲いた花嫁を前に家族一同が心配そうな顔を並べた。
 結婚後七日目に作太郎は新妻を連れて妻の実家を訪問したのだった。媒酌結婚ではあったが彼はその妻もその実家をも愛して居た。
 程よい富、程よい名望、三棟の土蔵へ通う屋根廊下には旧家らしい薄闇が漂っていた。桟窓からさし込む陽に飴色《あめい
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